スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

cetegory : - ✣ - ✣ - ✣ -

2016年08月25日(木)  by スポンサードリンク [ Edit ]

LOVE & PEASE 電子書籍

cetegory : 電子書籍 ✣ comments(0) ✣ - ✣ -

2016年08月25日(木) 23:41 by 神原涼 [ Edit ]

あとがき

1998年当時、これを書くときに気をつけたのは、ラブシーンだった。
高校の文化祭に出すものだから、あんまりそういうのは濃くない方がいいなと。

当時、これを読んだ私のまわりの人たちは、最初アカリを好きになれなかったと言った。
読んでいくうちに、だんだんアカリが好きになるとも言った。
遠い過去の記憶なので曖昧だが、「いい子」を書きたくなかった記憶がある。
私が高校生のときは、心の中で親に反抗し、気の合わない同級生に壁を作っていた。
(気の合う同級生としか接してなかったが)
基本、当時から人間不信だった。
それをそのまま書きたかった気がする。

コピーに毛が生えたようなこの本は、どこでどうしてなのか、他の地方に行っていた。
まったく知らない土地の、まったく知らない高校生から手紙をもらった。
「この物語が大好きです」と。
すごく嬉しかった。
40歳の私が書いた物語を現役の高校生が好きだと言ってくれたのは感動だった。

今回これを電子書籍にするために、PCに書き写しているうちに、
あちこちを削ったり、別の場所に移したり、途中、なかった場面も浮かんできて書いた。
細かいところは違うが筋はそのまま・・・のつもりだったのだが、
ラスト近くを書いているうちに、まったく心が動かなくなった。
これは違うんだなと思い、頭の中に浮かぶままのものを書いていたら、
「そうなのか!」と。

正直、原本が「無難に高校生向けで」だったので、
高校生(今なら中学生か?)が軽く読む高校生の恋のようなじゃれあいのような物語。

それはそれでいいかなと思っている。
cetegory : LOVE & PEASE ✣ comments(0) ✣ - ✣ -

2016年08月25日(木) 20:23 by 神原涼 [ Edit ]

21.LOVE & PEACE

カズオのお父さんは再婚していて、カズオを引き取るって決めたとき、
奥さんは反対したんだって、高校生の男の子の面倒なんかみたくないって。
それで、カズオが来る日の朝、離婚するってキレたって。
そりゃそうだよね。
カズオのお父さんと私のお父さんが電話で話して詳しいことがわかったんだけど。
お父さんが言ってた。
「カズオのお父さんは、きっと少しは親らしいことをしたかったんだよ」
そうかなあ、振り回しただけじゃん。
「小さい頃別れたっきりでもな、親はそういうもんだ」
よくわかんないけど。

あの日、学校から帰ってきたとき、お母さんがいなかったのは、
近くのホームセンターでカズオの離れに置く家具が買いに行ってたからだった。
前は有り合わせの寄せ集めと布団だけだったけど、
今は、ベッドと机と本棚と洋服かけとカーペットが置いてあって、いっちょまえの部屋じゃん。
カズオが戻ってくるって知ってホームセンターに走るお母さん・・・ 笑える。

「アカリ」
お風呂上りで、タオルで髪の毛グシャグシャッて拭きながらカズオが入ってきた。
「ノックくらいしてよ」
「あ、悪りぃ」
悪いと思ってないくせに。
「なによ?」
「あのさ、明日、ヒマ?」
日曜日だから・・・ どこかに行こうってこと?
私は夏休みだけど、カズオは平日は現場、まだまだ見習いだもんね。
「予定はないけど、なんで?」
「来週、夏期講習のテストがあるんだけどよ」
ハ? ああ、定時制のね。
「英語・・・ 教えてくんねえかな」
ハァァアアア?
「あんたね! 私、ノート作ってやったでしょ!」
「そうなんだけどよ、文法が、な〜んかよくわかんねえんだよなあ」
「英文法のノートの作り方のノートも作ってやったよねっ?」
「やってる! ちゃんと、俺なりに、やってっから」
あんたなりに・・・っていうのが怖い。
「わかったよ、赤点とらないようにしてあげるよ」
「ちげーよ、俺はもっと上ねらってんだよ」
「ハ?」
「やっぱさ、ギリじゃなくてよ、平均点はとろうって思ってよ」
「目標低すぎ!」
「あ、すいません」

なんでこんなバカ好きになっちゃったのかな?
私はもっと知的な人がタイプなんだけどなあ。

「アカリ、どした?」
「なんであんたみたいなバカを好きになったのかって考えてたの!」
「それは・・・ あれだよ・・・ なんつうか・・・ あ! 棟梁が言ってた!」
「棟梁?」
「バカとハサミは使いよう」
笑ってるけどさ・・・

いいけど。

背中から抱きしめてくる あんたの腕の中 あったかいから
見上げると あったかい目で いつも私のこと見てるから

「アカリは俺のラブ・アンド・ピ―ス!」
よくそんなこと、恥ずかしがらないで言えるよ。
「ピースのスペルは?」
「えっと・・・ P・E・A・C・E」
「正解!」
「もう間違えねえからな、なんだっけな、前に、あ! P・E・A・Sじゃねえんだよ」
PEAS?
ああ! 私が熱出してたときに言ってた、あれはPEESで
「カズオ、PEASは豆だよ」
「豆?」
「アハハハハ! バッカみたい!」
「豆かよぉ」

あんたとなら・・・
笑えるから、だから・・・

いいの。


Fin.
cetegory : LOVE & PEASE ✣ comments(0) ✣ - ✣ -

2016年08月25日(木) 20:02 by 神原涼 [ Edit ]

20.ノートとハンカチ

カズオが裏口の前に自転車止めて、私は荷台から降りた。
「アカリ、サンキュ」
カズオはそう言って、シャンプーの入ったコンビニの袋をかかげて見せた。
「うん」

それで? どうすればいいの?
カズオが私のこと黙って見つめてる、何か言いたそうで言えないって顔で。
私も言いたいことがいっぱいある気がするんだけど、何を言えばいいのかわかんない。
だって、今さら何か言ったって、泣いたって、何も変わらないし。

「オヤスミ」

いつもみたいな声で、カズオの顔見ないで、そのまま裏口のドア閉めた。


カズオは明日の始発で行くって言ってたよね、お父さんが駅まで送るって。
私が起きてきた頃にはいない。
それって、いつもの朝みたいじゃん。
カズオとは・・・ もう・・・ 会えないんだよね・・・ 来年の春まで・・・
来年の春なんて、すごくすごく遠くて、一生会えないのと同じくらい遠く感じる。
ちがう、本当は・・・ 実感ないんだよ、カズオがいなくなるって。
さっきも、フッツーの顔して、ガリガリ君の当たりがどうのって、そんなことしか言ってなかったし。
カズオはどう思ってるのかなあ? もうふっ切れたのかな?
来年の春には戻ってくるってきめたから?
だけど、その間私はひとりで、カズオは新しい生活が始まって、いろんなことが変わるのに。
もしかしたら、向こうで好きな子ができるかもしれないじゃん。
やっぱ近くにいる子の方がいいとか思ったりしてさ。
いいけど。
そしたら私もカズオのことなんか忘れる。
それに私にだって好きな人ができるかもしれないじゃん、さっきは冗談で言ったけど・・・
じゃなくて、来年の春から私、ガッツリ受験生だよ、恋愛どころじゃないよ。
来年どころか、二学期になったら進路指導が始まって受験街道まっしぐらだよ。
よかったのかも、うん、よかったんだよ、恋とかそんなのに浮かれてられなくなるもん。
私はいいとしてもさ、カズオは大丈夫なのかなあ?
ちゃんと卒業するとか言ってたけど、また英語で赤点とっても・・・ あ! 忘れてた!
机の上の6冊のノート。
今から持っていく? なんか会いたくない。
キッチンに置いておけば、明日の朝気づくよね。
えっと・・・ あ、この手提げ袋に入れて、追試のときに使ったやつ・・・
メモ書いて入れておく? だね。

『カズオへ
 これは、それぞれの科目のノートの作り方を書いたノートです。
 少しだけ、試験のときに、こういうところを注意して覚えた方がいいって例文も書いてます。
 現国・英語・英文法・古文・世界史。日本史だけです。
 理系科目は、自力でがんばってください。
 アカリ』

そうだよ、これは、お父さんに引っぱたかれて、チェーン外れて、チョコ買いに行った、
あの日作ってたんだよ。
最初は自分の勉強してたんだけど、なんとなく思いついて、これを作ってるときは、
いろんなこと考えなくて済んで、夢中になって作ったんだよ。
カズオのためっていうより自分のためだったかも。

キッチンに置いてこよう。



朝起きて、キッチンに行くと、お母さんがいて、いつもの朝。
「カズオくん、もう行ったわよ」
わかってるよ。
「アカリのノート、喜んでたわよ」
いいよどうでも。
「お父さんも感心してたわよ」
もっとどうでもいいよ。
「そうそう! カズオくんから預かってたのよ、アカリに渡してくれって」
お母さんが何か入ってるコンビニの袋を・・・
「部屋に置いといて。帰ってから見る」

お弁当箱つかんで、キッチンを出た。

昼休み。
教室のザワザワした音がたまらなくなって、屋上に来たけど・・・
校庭に植えてある木が、どれも夏の光でキラキラしてて・・・
校門が見える。
あそこに・・・ カズオが現れたときは死ぬほどビックリしたよ。
汚ったない恰好で、ニッコニコして手なんか振っちゃって。
シッシッて追い返したのに、余計に大きく手を振って・・・ バカだよ。
なんだかすごく遠いことのように思える。
なんだか・・・ 胸の奥が重たくて・・・ イヤだ。
教室に戻ろう。


「ただいま〜」
あれ? お母さんいないの? 買い物かな、いいけど。

部屋に入ると、机の上にコンビニの袋。
私にって、カズオが私にくれるものなんてあるの?
なにこれ?
あのTシャツ? LOVE & PEASEの・・・ あれ?



Sに×してCって書いてある。
よくできました、正解です。
てか、なんでこんなTシャツ、私にくれたの?
着ないよ! てか、いらないし、こんな汚いの。
あれ? なんか手紙みたいなのが・・・ これってノート破ったんじゃないの?
ふつうさ、便箋とかさ、いいけど。

『アカリ、なに書いていいかわかんないけど、』
だったら、なんで書こうと思ったのよ?
『オレはしばらくアカリのそばにいられないから、代わりにこのTシャツ置いていく。』
ハ?
『このTシャツで、アカリの鼻水ふいて、口についたチョコふいて、なみだふいた、』
涙くらい漢字で書けよ。
『これはアカリのハンカチだから。』
なに言ってんの?
こんなの、こんなのがハンカチって・・・
『オレがもどってくるまでは、これでガマンしてくれよ。』
戻るくらい漢字で書けっての、現国大丈夫かな?
『オレさ、ゆうべガンかけたんだ。』
ガン? なに?
『もしも、もしも、ガリガリ君にアタリが出たら、』
ガンて・・・ 願?
『オレはすげえ早くもどってこれるって、アカリのそばに、すぐにもどれるって』
バカみたい・・・
『そしたら、アタリが出たじゃん! ビックリした! あれ、マジでアタリ出るのキセキだからさ。』
アイスの棒に奇跡感じる?
『だから、きっと、思ってるより早くもどってこれる!』
ガリガリ君のアタリの力を信じるの? いいけど。
『だから、オレがもどってくるまで、新しいカレシ作るなよ』
バカじゃない?
バカみたい。
こんなTシャツ、ハンカチって・・・
ちがうよ! こんなTシャツは私のハンカチじゃないよ! バカ!
私のハンカチは・・・
私の涙拭いてくれるのは・・・ カズオだよ!
カズオじゃなきゃダメなんだよ! カズオの腕の中じゃなきゃダメなんだよ!
『LOVE & PEACEって、愛と平和って意味だよな。』
愛っていう字がすごいことになってるけど。
『オレにとっては、アカリがLOVE & PEACE』
なに・・・なに言ってるの・・・
どうするのよ・・・ 涙出てきたのに・・・ あんたがいないよ・・・
私のハンカチは、あんたなのに・・・
Tシャツで涙おさえても・・・
「ちがうよ・・・ これじゃないよ・・・ ホッとしないよ・・・ いつもみたいに・・・ ホッとしないよ」
Tシャツが涙で濡れていっても・・・
全然ホッとしないよ・・・
「カズオのバカーーー!」




なに

「ごめん」

背中から   抱きしめられて・・・る・・・

なに?

「バカでごめんな」

え?

振り向いたら

ウソ

「な  な  なんで」

「追い返された」
情けない顔で笑うその・・・

「なんで?」
なんで  今  ここに

「親父の奥さんが、どうしてもイヤだって」

なに?

「俺のこと引き取んのムリだっつって」

なんか  よくわかんない

「社長に電話して・・・ そんで、戻ったきた」

戻って・・・ 戻ってきた・・・

「戻ってきた?」
「うん」
「ウソ!」
「え、や、マジ」
「ウソ!」
「マジだって」
「ウソ!」
ああもう・・・・
「バカーーーー!」
カズオの腕の中に飛び込んで・・・
ここだよ・・・ やっぱりここしかないんだよ・・・ だって・・・ ホッとするもん・・・
カズオが私の頭を優しくなでて・・・
「やっぱさ」
カズオの声も涙声で・・・
「ガリガリ君のアタリはすげえよな」
なんだかわかんないけど・・・
「すごいよぉぉ」
カズオの腕の中で、ずっと子どもみたいに泣いた。
cetegory : LOVE & PEASE ✣ comments(0) ✣ - ✣ -

2016年08月25日(木) 19:54 by 神原涼 [ Edit ]

19. シャンプーと当たり

カズオがタオルで髪の毛ゴシゴシ拭きながら入ってきた。
「シャンプー使った?」
「使った使った! やっぱ違けえよなあ」

ビックリだったよ。
カズオがお風呂入るときになにげに聞いたんだよね。
「シャンプー、どんなの使ってるの?」って。
カズオが使ってるシャンプーとかお風呂で見たことなかったから。
「セッケン」
ハ?
「セッケンで全部洗ってっけど」
ハァ〜ッ?
「だっから、いつも髪の毛ボッサボサなんだよ! ちゃんとシャンプー使いなさいよ!」
てことで、今日だけ特別に私のシャンプーとコンディショナー使っていいよって言ってあげた。
「ラックの上のやつだからね」って。

「なんかさ、サラサラすんだよ」
「どれどれ?」って、カズオの頭グイッてつかんで・・・
私と同じ香り・・・じゃない!
「カズオ、これって、お父さんのだよ!」
「ちゃんとラックに入ってんの使ったんだけど」
「ラックのどこ?」
「どこって・・・ 黒いやつ」
「ああああっ、お父さんのだあ!」
「マジ? 社長に悪いことしちまったな」
「じゃなくて! あれって、おっさん用だよ!」
「すっげえ気持ちよかったけどなあ、やっぱセッケンと違うなあって」
だったらいいけどっ。
あ!
「ねえ、コンビニ行こう!」
「え、あの・・・」
「ナプキンじゃないよ!」
「あ、ああ・・・ んじゃ、チョコ?」
「あんたのシャンプー!」


えっと・・・ メンズシャンプーなんて買ったことないからわかんないなあ。
これは・・・ 薄毛用、ちがう。
あ、これは? リンス・イン・シャンプー、えっと・・・ ミントって書いてるから若い人用だよね?
お父さんが使ってるやつの匂いって、なんか・・・ いいや、どうでも。
「カズオ、これ!」
「おう」
って、ジーパンのお尻のポケットからお財布出そうとしたから、
「これは私が買ってあげる」
「でも、俺んだからさ」
「いいの、買いたいの」
って言ったら、ニコッとして
「サンキュ!」
「その代わりアイス買って」
「おしっ! どれがいい?」
「まかせる」


ガリガリ君

まかせるって言った私が悪かったよ。
コンビニの横のバス亭のベンチ。
もうこの時間はバスなんて来ないけどね。
私の隣りに座ってガリガリ君かじりながら、カズオは何を考えてるんだろ?
「冷てっ」とか言いながら、フッツーにかじってるけどね。
「カズオ」
「ン?」
って私のことを見た顔も、いつもの顔で・・・
なんかちょっと憎たらしくなってきた。
「卒業するまで、こっちには戻らないんだよね?」
「うん」
「そっかあ、だったらさぁ、その間に私にカレシできたらゴメンね」
「えっ?」
落とす? そんなマンガみたいに、ポロッて、食べかけのガリガリ君地面に落とす?
「だってさぁ、来年の春までなんて長いじゃん」
「ア、アカリ・・・」
あ〜あ、足元でガリガリ君溶けてるよ。
「マ、マジで、言ってんのか?」
「マジだったらどうする?」
カズオが眉間にシワ寄せて考えてる考えてる、どうせ大した言葉は浮かばないだろうけど。
「イヤだ」
そ    そんな  素直に  言われちゃったら・・・
「あげる!」
一口しかかじってない私のガリガリ君をカズオの口に突っ込んだ。
「帰ろ!」
「え、あ、ああ」
カズオは口にガリガリ君入れたまま、自転車のスタンドを足でけり上げた。


カズオの身体に腕をまわして、背中にピタッと顔をくっつけてると、
こうやってるのが自然で、明日からもうこうすることができないって思えないよ。

「アーーッ!」
カズオがキィーッて自転車止めた。
「ど、どうしたの?」
「当たり!」
「えっ? な、何に当たっちゃったの?」
「当たりだよ当たり!」
「だから、何に?」
「ガリガリ君!」
「ハ?」
「ほれ」
ってガリガリ君の棒を・・・
『一本当たり ガリガリ君かガリ子ちゃんと交換できます。ガリガリ君ノッチとは交換できません』
なにこれ?
「俺、ガリガリ君の当たりって初めて見た! すっげえ!」
「何がすごいの?」
「これ持ってったら、タダでもう一本ガリガリ君がもらえんだよ!」
・・・・・
「これ、アカリのだったから、アカリが持ってけよ」
「カズオ・・・」
「ン?」
「いらない」
「なんで?」
「いらないから」
「そんじゃ、これ、俺もらっていいか?」
「好きにして」
「おお! サンキュ!」
マジで新しいカレシ探そうかな・・・
明日から来年の春まで会えなくなるのに・・・ ガリガリ君の当たり?
どーーーでもいい!
cetegory : LOVE & PEASE ✣ comments(0) ✣ - ✣ -

2016年08月25日(木) 03:42 by 神原涼 [ Edit ]

18.最後の晩御飯

お母さん、張り切っちゃったね。
ちらし寿司にから揚げに煮物に天ぷらにステーキに・・・
「カズオくんはポテトサラダも好きでしょ」って、食べきれないよ。


いつもの、休みの日の晩御飯の光景。
カズオは美味しそうにバックバク食べて、お父さんはビール飲んで顔真っ赤で・・・
明日にはカズオがいないなんて信じられないよ。
「アカリ、おまえ、から揚げ好きだろ、ほら食べなさい」
お父さんがぎこちなく私の機嫌とってくるのがイヤ!
「お父さん取ってやろうか」
って、お父さんのお箸でつかんだヤツなんか死んでも食べたくないっ。
私に無言で拒否られたお父さんは、どうすりゃいいんだ的にから揚げつかんだままで、
「カズオくん、ほら、食べなさい」
ってカズオのお皿に載せたらカズオは拒否れないでしょ!
「ありがとうございます!」
嬉しそうに食べてるけど、お父さんのお箸でつかんだやつだよ?
いいけど。


お腹いーーっぱいだけど、テーブルの上にはまだたくさん残ってる。
お母さん、作り過ぎだよ。
「カズオくん、明日これ詰めてお弁当作るから、電車の中ででも食べてちょうだいね」
「マジッすか? ありがとうございます!」
残り物だけど・・・ カズオは、お母さんの料理が美味しいって言ってたから。
でも、今のお母さんの言葉で・・・ 明日、カズオが行ってしまうって、ちょっと実感しちゃって。

お母さんがお茶を入れて・・・
なんだかみんな黙っちゃって・・・
「あ、あの」
カズオが口を開いて、みんながいっせいにカズオを見ちゃったから、
なんかドギマギした顔になって・・・
「今までありがとうございました。本当に、お世話になりました」
カズオがそう言って頭を下げる。
お母さんは目を真っ赤にして、カズオの前にお茶を置いて・・・
「そんな改まった挨拶はいいよ」
お父さんはちょっと泣きそうな顔でそう言って笑った。
「カズオくんと一緒に暮らせて楽しかったよ」
お母さんはウルウルしながら、お父さんの言葉にうなずいた。
「まあ、あのお父さんと暮らすのは・・・ 初めてだから、最初は慣れないかもしれないが、
 カズオくんなら大丈夫だ、どこに行ってもみんなに好かれるから、なあ、お母さん」
「本当にそうよ」
お母さんは涙声でうなずいた。
「あの頑固なうちの棟梁だって、カズオくんのことを可愛がってたしな。
 他の連中もカズオくんがいなくなるのは淋しいって・・・ンッンッ、言ってたよ」
お父さん、咳払いして泣きそうになるのをごまかしたね。
「ありがとうございます」
お母さんの顔はもう涙でグシャグシャ。
そして・・・

沈黙

やだな・・・ こんな雰囲気・・・ ごちそうさまって言って立ちあがろうかな・・・

「カズオくん」「社長」

お父さんとカズオが同時に・・・

「ン? なんだ?」
「あ、いや、あの、社長から・・・」
「そ、そうか? まあ、なんだな、向こうに行ったら、しっかり勉強して、ちゃんと高校卒業しなさい」
「はい」
「ヤスさんが、カズオくんのおじいさんが苦労して高校に入れてくれたんだからな。
 カズオくんがいちばんわかってるだろうが、あの生活で高校に入れるのは大変だったと思う。
 その気持ちを絶対無駄にしてはダメだぞ」

だからなんだね・・・
カズオくんのおじいさんがどんなに苦労してカズオを高校に入れたかわかったから、
お父さんは「高校を卒業させてやりたい」って引き取ったんだ・・・ やっとわかった。

「はい、ちゃんと、絶対卒業します」
「がんばれよ」
お父さんはそう言ってニッコリした。
そしてまた・・・

沈黙

「あ、そうそう! お父さんが買ってきたケーキを」
お母さんも沈黙に耐えられなくなったんだね。
「あの、社長」
お母さんが冷蔵庫の前でストップモーション。
「なんだ?」
カズオが、いつもの、大切なこと言いたくて、なかなか言えない顔になって・・・
「どうした?」
フゥ〜ッて大きく息吐いて・・・
「俺、ちゃんと高校卒業します」
「うん、そうだ」
「そ、そんで、卒業したら・・・ 社長の工務店に就職させてください!」
お父さんがビックリした顔で目を見開いたまま・・・
「ハ、ハンパな気持ちで言ってるんじゃなくて、俺、ここに来て、社長んとこで働かせてもらって、
 つうか、俺なんて全然まだなんもできなかったし、失敗ばっかして迷惑かけて、
 でも俺、本気でこの仕事してえって思ったんス。いっちょまえの職人になりてえって」
お父さんの目が・・・
み、見ないでおこう・・・
「俺、ここに連れてきてもらう前は、高校なんてどうでもよかったし、じっちゃん死んで、
 高校やめて、テキト〜にコンビニとか弁当屋とかでバイトすればいいかって、
 やりてえことなかったし、俺なんかができることなんてなんもねえって思ってたし。
 でも、社長んとこで、社長や棟梁にいろんなこと教えてもらって、楽しいって、
 正直キツいっスけど、でも、すげえ、なんつうか、もっといろいろ覚えてえって、
 もっと仕事覚えて・・・ だから、あの・・・ 社長の工務店で働かせてください!」
カズオが立ち上がって、頭を下げて・・・

沈黙

お母さんは冷蔵庫の前で固まったまま。
お父さんは・・・ どんな顔してるのか怖くて見れないよ・・・

「カズオ、座りなさい」
「は、はい」

今・・・ カズオって言った? カズオくんじゃなくて。
チラッとお父さんを見ると、すごく真剣な顔でカズオを見てる。

「高校を卒業したら、面接に来なさい」
「え?」
「今度は正社員だからな、ちゃんと面接して、試用期間は三か月、わかったか」
「はい!」
カズオの顔がパーッと明るくなった。
「しかし、こんな小さな工務店に就職したいなんて物好きだなあ」
お父さんはそう言って笑ったけど、目の端に涙・・・ 見なかったことにしよう。
「そのときには、俺もカズオのお父さんに挨拶しに行くから、それは心配するな」
「あ、ありがとうございます」
そうだよね・・
カズオのお父さんは、おじいさんが世話になったこの工務店にいることが気に食わないって・・・
お父さん、そんなことまでちゃんと考えてるんだ・・・
「向こうに行ったら、ちゃんとお父さんのいうことをきいて、親孝行するんだぞ」
「はい・・・」
「孝行したいときは親はなし、墓に布団は着せられずだからな」
なに今の???
「もしかしたら一生会えなかったかもしれないお父さんと会えたんだ、よかったじゃないか」
よかった・・・のかな・・・
「実の親とはいえ、ずっと離れてたんだからいろいろあるとは思う。
 辛いこともあるかもれない、泣きたいときもあるだろうが、
 そこは歯を食いしばって耐えることも必要なんだからな」
「はい」
「でもな・・・ 耐えて耐えて、どうしても耐え切れなくなったら・・・ ここに戻ってこい」
え?
「いつでも、戻ってこい、ここはおまえの、もうひとつの家だ」
お父さん・・・
カズオがくちびる噛んで必死に我慢してるけど・・・ 目からボロボロ涙が・・・
「お父さん・・・」
「ア、アカリ、どうした?」
「大好きぃぃぃ・・・ウェ〜ン・・・」
「な、なんでおまえが泣くんだ、だ、大好きって、な、なに急に、なあ、お母さん」
お母さんは冷蔵庫の前でエプロンで顔隠して号泣してるよぉぉ。
「社長」
カズオが手で涙拭って・・・
「俺、戻ってきません」
え?
「卒業するまでは、絶対に戻ってきません」
カズオの声は震えてるけど・・・ なんか力強くて・・・
「そんな、そんなハンパな真似したら、社長、いつも叱るじゃないスか。
 中途半端なこと・・・するくらいなら・・・ 辞めちまえって」
カズオは涙ボロボロ流しながら、笑って見せた。
カズオ〜・・・ かっこいいよぉぉ・・・ ウェ〜ン・・・
お父さんが・・・ 涙で顔グジャグジャだよぉ・・・ ちょっとキモいけど、今はいいよぉ・・・
「カズオ、おまえは・・・ 俺の若い頃にそっくりだな」
それって褒めてるのかわかんないけどぉ・・・
カズオが嬉しそうにしてるからいいよぉぉ・・・
cetegory : LOVE & PEASE ✣ comments(0) ✣ - ✣ -

2016年08月24日(水) 15:04 by 神原涼 [ Edit ]